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2013年3月12日 (火)

『資本主義という謎』水野和夫・大澤真幸(NHK出版新書)から


(末期的資本主義が『経済ジェノサイド』を“計画”せざるを得ないことを理解するための補助線として)

他国間協議であるはずのTPPについて、その一参加国に過ぎないはずの米国大統領と会談しただけで、何かの確約を得たかのようなことを自国民に言いふらす首相がいる。
仮にそれが“確約”に近いものだとしても、それが日米二国間で交わされたものである限り、他国間協議という枠組みの中では“密約”の類いとみなすべきはずのものなのだが、そんな“密約”を自国民に言いふらす首相が現におり、その国には「密約をオオヤケの場で言いふらしてしまって大丈夫なのか?」と進言する者もいないようだ。
お人好しバカの側は、他国間協議であるものを二国間協議であるかのように欺瞞しようと必死になり、アコギな冷血者の側は、他国間協議におけるセンシティブな二国間会談の内容を簡単に言いふらすような国の政府は信用できないとして、その“確約めいた密約/密約めいた確約”については平気で反故にしてくるのだろう。
本当に“立派な”外交交渉だ。
日本という国には、「外務省」という省があるということらしいが、きっとそこは“外務”に専任する省であって“外交”を任務とする省ではないのだろう。
私は“外務”という言葉の意味を良く知らないし、当然のこと「外務」というものの内訳にも詳しくないが、きっと奴らのことだから“外務”と“外交”を区別しているに相違ないと思われる、そうとでも考えなければ説明のできない事象が多すぎるのだ。
このような機能不全国家において、しかし、この国の歴史的蓄積は、西洋の学問の文脈とは異なる/オルタナティブな文脈から物事を見る足場や目を比較的容易に確保できる土壌をまだ辛うじて保持している。
いわゆる社会学者の大澤真幸といわゆるエコノミストの水野和夫の対談からなる『資本主義という謎』という本は、日本の置かれた歴史文脈的条件を意識しながら「資本主義」を極力外部からの視線/他者の視線で眺めてみようと努力している本だ。
この意味で、モチーフにおいて中山千賀子に通底しているし、もっと大きな規模のものとしては柄谷行人の提出している議論にもつながっていくものだ。
この本には面白いネタがたくさん詰まっているのだが、特にマネタリストと呼ばれている人たちのしている議論のいかがわしさに大澤が(恐らくかなりソクラテスを意識しながら)斬り込んでいる箇所を読書記念という意味で引用しておこうと思う。


(引用開始、同書206頁〜)
大澤…ジャーナリストのヘンリー・ハズリットは、名著の誉れも高い啓蒙書『世界一シンプルな経済学』で、「人類が取り組んできたあらゆる学問の中で、経済学に最も誤りが多い」とはっきり書いています。
水野…それはその通りですね。陳腐化しているとしか思えない「成長戦略」や機制緩和を未だに言い出す。あげくの果てに規制緩和の不徹底さゆえに、今の日本の低迷があると主張する。
大澤…ハズリットは、経済学者とは言えないかもしれませんが、経済学に精通したジャーナリストです。この本は、ハイエクやフリードマンも絶賛していますから、彼の経済学の理解は非常にしっかりしていると思います。そこで書かれている、経済学は最も誤りの多い学問、という認定を、経済学者自身が、ある程度、真摯に認めざるをえない状況だと思うのです。逆の立場、つまり一般の人のほうからすると、経済に関して、「真実がわかっている人」がとこかにいる、という想定を捨てないといけないと思うのです。
(中略)
ぼくは、経済学の専門家ではありませんが、一例だけ挙げておきます。マネタリストがその中核に置いている、貨幣数量説がありますね。これに従えば、貨幣の量を増やせば、インフレになるはず(デフレが克服されるはず)です。「名目GDP」は、「実質GDP×物価水準」であり、そして「流通貨幣量×流通速度」でもある。この三つが等しいということは、恒等式なのですから、貨幣の流通速度が一定ならば、貨幣の量を増やせば、インフレになるはずです。基本的なところは、小学生でもわかる理屈です。
(中略)
水野…貨幣数量説は国際資本の完全移動性が起きていない世界でしか成立しないのです。国際資本が完全に移動し、「電子・金融空間」が「地理的・物的空間(実物投資空間)」を圧倒するような規模になると、いくらマネー(M)を増やしても、物価上昇(GDPデフレーターの上昇)につながりません。
(中略)
グローバル化し、資本市場が大きくなると、増加したMは、海外に資本流出するか、国内の株式市場や土地市場などに向かいます。…Y(実質GDP)を増やすような工場投資をするよりも、株式市場や土地市場で今日買って、明日売ったほうが、手っ取り早くしかも巨額な利益を手にすることが可能になりました。…また、海外にも資産が流出し、あるいは外国人投資家がゼロ金利で円を借りて、米国債に投資すれば、金利差で2%稼ぐことができます。しかもドルが強くなって、為替差益も期待できます。(中略)
マネタリストは、日銀にやる気がないと批判しますね。日銀が「これは効かない」と嫌々やっているから、周りも信用しない。でもこれは「日銀よ、もっと本気を出せ」という精神論でしかなくて、経済学が「宗教」になったのではないかと思えて仕方がありません。滑稽このうえないことです。
大澤…普通であれば、そこまでやってうまくいかなければ、マネタリストとしては、日銀が悪いんじゃなくて、自分の理論が悪いと気がつくべきではないでしょうか。…おそらく、経済学というものの着想の根の部分に、何か盲点がある、ということではないか。その盲点に入っているものを一つ名指すとすれば、それは貨幣ではないかと思うんです。
水野…貨幣に関する新しい理論が必要なのにないんですよ。そもそもお金が国境を越えるという事態が想定されていない。…しかし、投資家の頭の中には、日本経済、アメリカ経済というような国境はもうないわけです。だから私から見ると、経済学っていったい何だろうという気がしてきます。市場原理に委ねれば、需要と供給が一致するんだと言われても、そんなことはないだろうと。
大澤…だって現に供給過剰になっているわけですよね。
水野…ええ。ですからそもそも近代経済学というのは、やはり一国単位の経済学だったのだろうと思います。たとえば、金融工学が進んで貨幣が貨幣を生む自己増殖過程に入ると、貨幣の量なんてまったく把握できない。そもそも、株式交換で企業買収ができるようになると、どこまでを貨幣とするかという定義もできないわけですから。
(引用終了)


ここで言われていることは、実際に自分が売買に参加していなくても、「金融市場」とやらで行われていることに多少なりとも関心がある人ならば、さして目新しいものではないだろう。
実際問題、財務相麻生がいみじくも指摘した通り「我々はまだ何もしていない」内から、つまり大規模口先介入(?)のみで株価上昇、円安基調が鮮明になったのだ。(つまり、「金融市場」側が実はアベノミクス的なものを水面下でしきりに催促していたのであり、安倍はそれに躊躇せずに乗って見せたということだろうし、それだけに過ぎない。今起きていることは、だから、TPP参入問題同様、民主党政権を潰した後の予め想定されていた既定路線に過ぎないことになる)
アベノミクスの効果を声高に叫ぶクチは、縮小トレンドの際にはしきりに用いた「経済のファンダメンタル(はしっかりしているとか危ういとか)」いう言葉を一切口にしなくなっているのは余りにも白々しくまた恥ずかしい。
そして、この「人工的金融バブル」を、強引に実物経済にも及ぼすために、安倍内閣は、企業の給与水準にすら口先介入を始めている始末だ。
したがって今生じているのは、「市場の自動調節機能、市場原理主義、新自由主義って本当に素晴らしい理論ですね、一刻も早くその理論に現実が近付くよう我々は努力しますよ」と、以前より更に巨大化した政府が強権をちらつかせて叫んでいるという何とも言えないグロテスクな絵柄が出来しているということだろう。
なるほど、しかし、日本の財政赤字も深刻なことは深刻なのだろうが、より深刻なのは、経済学的/思想的には、リーマンショックの際に、よりによって米国政府が、市場から淘汰されるべき企業を次々と救済した時点で、少なくとも「市場の自動調節機能を重視した新古典派の経済学」というものが完全に破綻し破産しているということではないのか。
にもかかかわらず、バブル崩壊の後始末と称して、あるいは悪性のデフレ退治のためと称して、(いかにやむを得ない点があろうとは言え)相変わらず野放し状態の金融をめぐる法と組織/機関/法人は、ゾンビのようにただ増殖だけを求めて世界中を闊歩しているのだ。
当該書の引用箇所以降にあっては、日本の財政問題に話が移行してしまっており流れとしては大変残念なものになっている。
そもそも日本財政の深刻化は、自由主義を偽装した米国の強権的ヘゲモニー維持の犠牲になっている面があり、その点をはしょって日本の財政の深刻さだけを語っても無意味だ。
日本の経済現象の行き詰まりの点は事実だとしても、それとは別に〈政治的に
解決すべき問題〉も山積しているのが事実である。

「(世界)経済」と「覇権国家の政治」がどのように絡み合っているのかを見るために、また、中山千賀子の著書に戻ろう。

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